取り組みの背景

2015年にメディアを賑わせた「文系学部不要論争」に象徴されるように、日本社会における人文・社会科学は、昨今厳しい状況に置かれているといえるでしょう。

「何の役に立つのかわかりづらい」「評価指標が明確でないために社会的意義が示しづらい」──ふだん人文・社会科学に関わる機会が多くない人の中には、こうしたイメージを持たれるケースも少なくないのではないでしょうか。

実際に、文系学問を取り巻く環境をみると、常勤職のポスト減少やキャリアパスの不透明さを背景に2021年の大学院進学率が人文科学4.1%、社会科学2.2%に留まるなど、社会的意義が認められにくく、予算獲得も難しい現状があります。

しかし私たちは、文系学問のなかにはいまの社会から一定の距離を置き、社会を相対化しながらも真理を探ろうとする営為があると考えています。

人文社会科学領域の豊かな知が生まれる土壌を耕すことで、“文系学問”とともに「次なる社会」を探索していきたい──。このプロジェクトではその第一歩として、人文・社会科学分野における課題と機会領域を探り、体系化して公開する「リサーチレポート」の制作に取り組みます。

レポート概要(予定)

現在、人文・社会科学分野の知見を社会に還元しようとする動きが進んでいます。経済学の知見を生かしたコンサルティングを提供する企業や、人類学の知見から調査・マーケティング、課題発見をサポートする企業などが生まれ始めました。

日本学術振興会などのファンディング・エージェンシーも、未来社会が直面するであろう諸問題に係る有意義な応答を社会に提示することを目指す研究テーマを支援するプログラムを立ち上げ、研究者とNPOや行政、産業界などの多様なセクターでのコラボレーションを促進しようとしています。

こうした背景を踏まえ、本調査では既存の文献調査に加えて、このようなアカデミアの内外で研究知の社会実装を試みる実践者や当該領域の専門家へのヒアリングを行うことで、人文・社会科学の知が生み出すインパクトの体系化や課題解決に向けた機会領域の提示を行います。また、制作したレポートはオープンソースとして広く公開します。

将来的にはリサーチ・レポートで得られたインサイトを活用し、研究知を生かした社会課題の解決を目指した「アカデミックインキュベーション・プログラム」の立ち上げを計画しています。「研究知を生かした社会課題の解決を目指す」ことを中心テーマとして掲げ、研究者(やプロジェクト)の支援を通じて、家族や子ども、まちづくりなどの領域の課題解決に貢献していきたく考えています。

レポート構成(予定)

・はじめに

・人文・社会科学を取り巻く課題マップ

・人文・社会科学の現在地

人文・社会科学の意義にまつわる議論

人文・社会科学の歴史的経緯

人文・社会科学が置かれている現状(大学/民間/国・行政)

・人文・社会科学の知の“活用”や支援におけるトレンド

研究知の活用(企業や実践する研究者の紹介)

研究のエコシステム支援(企業や実践する研究者の紹介)

・人文・社会科学のこれから

人文・社会科学の役割

・デサイロがインキュベーションしたい機会領域

・おわりに

人文・社会科学を取り巻く課題マップ